blog  image

グローバル視点で見る日本のウェブパフォーマンス

2024年12月26日

この記事は約6分で読めます。

はじめに

デジタルマーケティングの世界では、ウェブサイトは企業のブランディングや商品の魅力を伝える主要なタッチポイントとして重要な役割を果たしています。そのため、ユーザーエクスペリエンスの向上やコンバージョン率の改善は、競争が激化する現代の市場において必要不可欠な課題となっています。

自社が業界内およびグローバル市場でどの位置にいるのかを把握することで、強みや今後の改善点を明確にできます。

本記事では、業界別のセッション数、ウェブサイトにおけるパフォーマンス、CVR(コンバージョン率)に焦点を当て、日本と世界の特徴を比較・分析します。日本と他国における消費行動やウェブ体験の違いを理解し、今後のマーケティング戦略のヒントを探っていきましょう。

日本と世界のセッション数から見るそれぞれの特徴

下記のデータはContentsquare社が2021年1月1日から12月31日の期間で、日本を含むアメリカ、フランス、ドイツ、オーストラリアなどの欧米圏を含む、世界25カ国、3780以上のWebサイト、460+億以上のユーザーセッションを対象に行った調査をもとに作成されています。

世界における業界別月間セッション数(画像引用元)

まず、グローバルデータから業界別のセッション数を見てみると、家電、ファッションといった業界が全世界でトップを占めています。特に日本と比べ、クリスマスを祝う文化が根付いている地域が多く、北米をはじめとする国々では、クリスマス前のブラックフライデーやクリスマス直後のボクシングデーといった大幅な値下げセールが行われます。そのため、11月から12月にかけて大幅にトラフィックが増加する傾向があります。

日本市場における業界別セッション数(画像引用元)

一方、日本においては、高価格帯の商材を扱うラグジュアリー業界や家電のセッション数が年間を通じて非常に高い傾向にあります。また、家電やファッション業界のトラフィックは、グローバルデータと異なり、クリスマスシーズンの11月や12月ではなく、9月に増加し、その後は減少する傾向があります。

この理由として考えられるのが、大手の家電メーカーの決算シーズンです。9月は中間決算となることが多いため、この決算の時期に大幅な値下げセールが行われることで、家電製品のセッション数が上昇傾向にあるといえます。

日本のウェブサイトパフォーマンス特徴

日本市場における業界1ページあたりの平均滞在時間(画像引用元)

次に、日本のウェブサイトのパフォーマンスの特徴について解説していきます。

閲覧時間を見てみると、最長平均滞在時間がメディア業界で93秒、最短でエネルギー業界で39秒です。

また、世界のデータを考慮するとメディア業界で最長322秒、そして最短165秒の金融サービスであることがわかります。比較すると、日本のウェブサイトの平均滞在時間はグローバルデータに比べて非常に低いようです。

コンバージョン行動の特徴

続いて、顧客のコンバージョン行動について見ていきましょう。

世界における購入セッションの平均所用時間(画像引用元)

全業界のサイト上で購入に至る場合のセッションにおける平均時間は15分5秒であり、購入前のリサーチが入念に行われていると考えられます。このような場合、サイトにおいてもコンバージョンプロセスをシンプルで分かりやすくすることで離脱率を低減できます。

一方、購入セッションの平均時間が高い場合には、プロセスが複雑化していないかを再確認することが重要です。

世界における購入セッションの1セッションあたりの平均ページビュー数(画像引用元)

また、コンバージョンに至ったセッションでは、通常の3倍のページビューがあり、顧客は購入前にウェブサイトで十分に情報収集していることを示しています。ページ内に信頼性が高く魅力的なコンテンツを豊富に盛り込むことで、コンバージョンを促進する効果が期待できます。

また、顧客に情報を提供する上で、テキストだけではページビュー数を伸ばすことは難しく、画像やスクリーンショット、動画など様々な情報タイプを盛り込むことも重要です。

業界別のCVRにおける世界と日本の比較

全業界における平均CVR(世界:青|日本:水色)(画像引用元)

日本の業界別CVRは、ラグジュアリー(2.3%)や旅行サービス業(12%)を除き、ほとんどの業界で1%未満という低い数値となっており、グローバル平均と比べると大きな差があります。特に医薬品、食料品、金融サービスといった分野で、日本は世界水準に比べて大幅に低い傾向があります。

例えば、欧米圏などでは特にオンライン診察やオンライン薬局などが普及しているため、世界のCVRが日本と比べて高い傾向にある可能性がある一方で、日本では法制度などの違いからDXにハードルの差があると考えられます。

また、世界ではオンライン上で日々の買い物ができる食料品デリバリーサービスが広がっている傾向にあるため、近所のスーパーやコンビニエンスストアで気軽に買い物をする文化が普及している日本と比べて、食料品業界のCVRが高い傾向にある可能性があります。

また、金融サービスにおいては、海外ではオンライン上でさまざまな決済を迅速かつ簡便に完結できる環境が整っている一方、日本では法律的・文化的な背景から紙などのアナログベースの取引が依然として多く見られることなどがCVRに影響を与えている要因の一つとして考えられます。

グローバルな視点での日本のDXの現状

IMD World Digital Competitiveness Ranking(画像引用元)

国際的な視点で見ると日本のDXにはどのような特徴があるのでしょうか。ここでは、スイスの名門ビジネススクールである国際経営開発研究所(IMD:International Institute for Management Development)および一般社団法人電子情報技術産業協会(JEITA)の調査結果を基に、日本のDXの現状について考察します。

このデジタル競争力ランキングは、行政機関、ビジネス、そして社会におけるデジタルトランスフォーメーション(DX)の進展度を、Knowledge(知識)、Technology(技術)、Future Readiness(将来の準備性)の3つの観点から評価しています。

トップ10にはシンガポール、韓国、香港、台湾などがランクインしている一方で、日本は31位です。また日本の全体評価の足を引っ張っているのが、新しい技術や新たな変化に対する適合力を表す「将来の準備性」の38位です。

前述のように医薬品や食料品、そして金融サービスなどをはじめとする業界で、インターネット、ウェブサイトを日常的に使用することが多い海外ではデジタル競争力が高く表れると考えることができます。国や地域によって当然社会制度や法律のシステムが異なるため、これらが各国の特徴となってDXの進展度の差を生み出していると考えられます。

日本が得意とするラグジュアリー業界…その訳は?

(画像引用元)

一方で、先ほどグラフを見ると、 日本においては、ラグジュアリー業界のサービス・商品に関するウェブサイトのセッションが多いことがわかります。

他の先進国と比べて日本のGDPや一人当たりの年間所得が横ばいであるにもかかわらず、ブランド品の売れ行きは伸びる一方。この理由はなぜなのでしょうか。

これにはさまざまな要因が考えられますが、西洋への憧れであったり、日本特有の集団主義などが一部の要因として考えられるかもしれません。

例えば、歴史的に建築様式や食生活、ファッションなどにおいて、西洋文化に倣うような形でそれらを積極的に取り入れてきた背景から、自国とは異なる文化への憧れが、西洋発のラグジュアリーブランドの人気を支える一部の要因として考えられます。

また、他人が持っていることへの憧れなどがブランド品の購入動機につながることもあり得ます。さらに、歴史や意味深いものを身につけることで自己表現や価値観の補強としても機能することができると考えられます。

いくつかの要素が組み合わさり、日本でラグジュアリー関連のウェブサイトへのセッションおよびCVRが相対的に高いと言えるのではないでしょうか。

終わりに

本記事では、日本と世界のデジタルマーケティングにおける業界別セッション数、ウェブサイトのパフォーマンス、そしてコンバージョン率の比較を通じて、消費行動やウェブ体験の違いについて考察しました。

日本の市場特有の文化的背景や社会的要因が、ウェブサイトのパフォーマンスやコンバージョン行動に影響を与えていることが言えそうです。根本的な社会システムによりDXへのハードルが高くなっている現状で、企業は日本市場の特性を生かしながら、グローバルな競争環境でも成果を出せるような戦略を構築することが今後の重要な鍵となってくると考えられます。

参考文献:

いかがでしたでしょうか?ぜひシェアをお願いいたします。