blog»ブランド・マーケティング»1年未満で0→40人 & ARR3倍拡大成長 DeepLのアメリカ事業に学ぶ、新市場展開の教訓【SaaStr参加レポート#3】
大森 葵
2024年11月15日
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今回は、SaaSプロダクトからは少し離れ、グローバルプロダクトとして、新市場への本格展開をする際の、組織における地殻変動やその際のポイントを、機械翻訳サービスであるDeepLのセッションよりご紹介します。
ドイツに本社を置くDeepLは、昨年アメリカ市場に進出し、0から40人のチームを立ち上げ、ARRを1年で3倍に成長させた経緯があります。
この成功の背景には、その実現を支えた要素があります。今回は、DeepLがどのようにアメリカ市場への進出を成功させたのか、その学びを8つのポイントに分けてご紹介します。
今回のベースとなるSaaStrのセッションおよびスピーカー
『Learnings from Scaling DeepL’s Americas Business from 0 to 40 people and 3x’ing ARR in Under a Year』 Yasir Motiwala氏, Head of Americas, DeepL
最重要ポイントをひとつ目にご紹介します。
それは、新しい市場への進出は、特定のチームや担当者だけでなく、会社全体で取り組むべき課題だという認識を持ち、行動することです。
DeepLでは、アメリカ市場への進出を全社的な最優先事項と位置付け、経営陣が積極的にリードしました。ドイツを拠点とするCEOも、アメリカ進出の前年には、10回以上渡米していたそうです。
また、人事やファイナンスチームを含む全チームにそれぞれKPIを設定し、毎週月曜日の定例にて、その達成具合を細かにモニタリングすることで、進捗管理を徹底していたそうです。
これにより、すべての部門が新市場の成功に向けて一致団結し、明確な目標を持って行動することができました。新市場で成功するためには、経営陣のリーダーシップと会社全体の一体感が不可欠だということですね。
2つ目は、新たな市場への進出では、社内外で期待値をしっかりと設定することです。
社内では、新市場に対してどの程度の投資を行うのか、短期的なテストかフルスケールでの進出か、また、進出市場の優先度をどうするのかなどを明確にし、関係者全員と共有する必要があります。
また、初期段階では効率が悪くなることや、軌道に乗るまでに時間がかかることも事前に理解し、新市場に展開することのハイライトだけではない部分も認識し、共有認識を築いておくことも重要です。
一方外部のステークホルダーやパートナーに対しても、新市場展開は、過去のデータがないため不確実性が高いこと、限られたリソースや異なるタイムゾーンでの業務進行が課題となるであろうことを伝え、「現実的な期待値を」持ってもらうことが必要です。
新市場で成功するためには、その地域に詳しいマネージャーや専門知識を持った人材の採用が不可欠です。
DeepLでは、特にアメリカ市場でリーダーシップを発揮できるマネージャーや専門知識を持つ人材の採用を優先し、チームを強化しました。地域の特性に応じたリーダーシップは、新市場での効率的な運営と成長に大きく貢献します。
また、人材雇用を行う際に、DeepLでは、いわゆる5W1Hに基づくシンプルなフレームワークを採用しながら、採用計画を立てていったそうです。
新しい市場に進出する際であっても、既存の顧客との関係はやはり優先事項です。
DeepLは、既存の収益をしっかりと守りつつ、アップセルやクロスセルを通じて収益の拡大を目指しました。
また、既存顧客からのフィードバックを活用して製品やサービスの改善点を特定することで、顧客満足度の向上につなげるほか、新市場にて本格展開をする際のプロダクトアップデートのヒントを得ることができたそうです。
DeepLでは、新市場のオフィスに所属するメンバーやチームをサポートするために、ネットワークやサポートシステムを整えました。
社内外のリソースを活用し、クラウドソーシングで知識やベストプラクティスを共有するほか、バディ制度を導入することで新メンバーがスムーズに業務に適応できる環境を整備しました。
さらに、Slackでは、#new-ae(account executive)-questionsというチャネルを作り、新メンバーが気軽に質問し、学べるオペレーションを作っていました。
理論と実践の両面から新しいメンバーが学べる仕組みを作り上げていることが印象的です。
新市場に進出する際には、本社と新拠点の連携が不可欠となります。
DeepLでは、時には、異なる拠点間でメンバーをローテーションさせ、チーム間の理解を深める取り組みを行いました。
Yasir氏が強調していたのは、本社と新しい拠点が、主従関係にならないようにすることです。
本社には、インクルーシブであることを強く依頼し、会議の時間や意思決定のプロセスにおいても、チームが平等に参加できるように配慮。
また、新拠点では、本社に遠慮しないこと、「本社のやり方が正しい」という考えを避けることを意識づけ、新しいアイデアやアプローチの採用を推奨するような環境を整えました。
いくら知名度もユーザーも持っているサービスであれ、新市場でゼロから拠点を築き、ビジネス基盤と整えていくとなると、一筋縄ではいかないことばかりです。
また、社内の文化もまだまだ発展途上にあるケースも多くあります。そこで、新拠点においては、「すでにある程度成熟している本社のカルチャーを移植してくる」という観点も、一体感の醸成のために重要だとYasur氏は言います。
その中でも特に重要視していたのが、「たとえそれが小さな成功でも一歩の前進を称えること」です。
実際DeepLでは、アメリカ拠点オープン後、初の300ドルの受注に対して、チーム全員でその成果を祝いました。
小さな成功を大切にすることで、チームの士気を高め、さらなる成長へとつながる土壌になります。
当然のことながら、新市場での成功にはとりわけ、迅速な意思決定と行動が求められます。とにかく一刻を争う、とYasir氏は強調していました。
また、トップ層だけが時間を意識するのではなく、周囲にも同じように時間に対するシビアな意識を持たせ、チーム全体としての速度を上げることが重要とYasir氏は話します。
さらにDeepLでは、「Good enough is good enough」とし、つまり、「完璧を求めすぎず、十分であれば前に進む」という姿勢を取っていました。完璧を追い求めるよりも、タイムリーに結果を出すことをより重要視する文化です。
いかがでしたか?
DeepLのアメリカ市場への進出は、経営陣のリーダーシップ、適切な人材の採用、既存顧客の重視、迅速なアクション、そして拠点間の協力が成功の鍵となっていると言えそうです。