blog»ブランド・マーケティング»目にとまる広告の黄金法則:違和感・共感・直感
2025年06月16日
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現代、私たちの脳は、日常的に大量の情報にさらされています。デジタルシルクの調査によると私たちが一日にみる広告の数は4000~10000件と言われています。
外を歩いても、スマホをのぞいても広告に溢れかえる、情報過多の環境において、私たちの脳はできるだけエネルギーを使わずに、瞬時に「見る価値があるか?」「スルーしてよいか?」を判断しています。
つまり、広告は“出会ったその一瞬”で、見られるか、無視されるかが決まるといっても過言ではありません。
心理学者ダニエル・カーネマンが提唱した理論によると、人間の思考は二つに分かれます。
広告を見るかどうかの判断は、ほとんどシステム1に委ねられています。私たちの脳は無意識のうちに、関心のない情報を素早くフィルターにかけ、無駄なエネルギー消費を避けようとします。つまり、広告に対し「興味ない」と判断された瞬間、その先を見てもらえるチャンスはほぼ0になってしまうのです。
だからこそ重要になるのが、3つの心理トリガーです。それは、目を引く「違和感」、心に響く「共感」、そして瞬時に意味が伝わる「直感」。
これらは、広告に強い印象を残すうえで非常に有効です。本記事では、この3つの心理トリガーを広告設計にどう活かすかを、実際の事例とともにご紹介していきます。
私たちの脳は、日常生活の中で見慣れたものにはほとんど注意を向けません。しかし、そこにわずかな「ズレ」や通常とは異なる違和感を察知すると、脳は自動的にブレーキをかけ、注目しようとします。
これは、脳が「何かおかしい、重要なサインかもしれない」と感じ、意識を向ける生存本能の一種です。
そのため、広告を制作する際には、この「違和感」をうまく活用することが重要です。
たとえば、株式会社日本ハムがシャウエッセンのパッケージを環境に配慮した形に改良した際、ユニークなプロモーションを行い、一時的にSNSで大きな話題となりました。
シャウエッセンが「エコパッケージを作りました」という事実を、ただストレートに発信しただけでは、小さな話題で終わってしまったかもしれません。そこで同社は、これまでパッケージについていた「巾着部分」がなくなることを、相撲力士の引退時に行われる「断髪式」にかけたユーモアのある演出でプロモーションを展開しました。
この工夫によって、「どういうことだろう?」と見る人の興味を引くフックを作り出すことができ、結果的にSNS上で760万回以上再生される大きな反響を得ました。
さらに、資生堂が2015年に公開した「High School Girl?」というWeb動画広告は、視聴者に強い「違和感」と驚きを与えるCMで注目を集めました。この広告は、ある高校の教室を舞台に、女子高生たちが楽しそうに過ごす日常の様子を描いています。
しかし動画の後半、彼女たちが実は全員“男子生徒”であったことが明かされるという展開が用意されているのです。視聴者は思わず「まさか!」と驚き、同時に資生堂のメイク技術の高さや、性別を越えた美の表現力に強い印象を抱きます。
違和感の次に大事なポイントが広告がどれだけユーザーに寄り添い、共感するかということです。広告を見た時に「これは自分のことだ」と感じた時に人は立ち止まってさらに商品・サービスのことを知りたくなる可能性があります。
商品やサービスの内容をプロモートするのなく、まずはじめにユーザーの悩み・欲求・状況に寄り添うって自分ごと化することでユーザーに興味を持ってもらうきっかけになります。
アフラックのCMでは、実際にがんを経験した人のストーリーを取り上げ、その中で闘病中に感じた想いや体験を描いています。リアルな声を通じて視聴者に共感や気づきを促し、「もしものとき」に備える重要性を自然と考えさせる構成になっています。
進研ゼミのDMに同封されている漫画冊子も、効果的な共感性の高い広告として挙げられます。
物語では、勉強に苦手意識をもち、日常生活でも悩みを抱える主人公が、進研ゼミとの出会いをきっかけに成績を伸ばし、自信を取り戻していく様子が描かれています。ターゲットである学生が自身を重ねやすい内容となっており、共感を生むことで受講生の増加にもつながっています。
ユニ・チャーム株式会社は、Instagramにおいて「マミーポコパンツ」のブランドアカウントを運用しています。
このアカウントでは商品の魅力を伝えるだけでなく、子育てに関するアドバイスやアイデアをフォロワーから募集することで、実際に子育てのあるあるや悩みを発信しています。
その結果、子育て中のユーザー同士のコミュニケーションが活発に行われ、ブランドへの親近感や共感が自然と育まれる仕組みを構築しています。
3つ目のポイントはユーザーに「なんとなく、いいかも。」と思わせることです。第一印象がユーザーの行動を大きく左右するため、言葉を読んで理解するよりも先に、視覚や雰囲気で「良い」と感じさせる仕掛けが、広告やLPにおいては極めて重要です。
例えば、IKEAは製品そのものを生活の中でどれだけ使いやすいか、楽しく使えるかを直感的に表すキャンペーンを行いました。家庭の中で実際に使われるシーンや、実際の生活空間にフィットする家具を紹介し、わかりやすく、ポジティブなメッセージを強調しています。
これは視覚的に暖かく親しみやすい印象を与え、製品が「自分の生活に馴染む」と感じさせるということが伝わり、すぐに生活を豊かにするような感覚を持たせます。
無印良品の広告や商品パッケージ、店内ディスプレイは、「見た瞬間に感じる心地よさ」や「暮らしへのなじみやすさ」を意識して設計されています。特徴的なのは、極限まで削ぎ落とされたデザインです。余計な色・言葉・装飾を排除し、白・生成り・木目といったナチュラルな色合いを基調とすることで、視覚的ノイズを取り除いています。
例えば、広告では「キャッチコピー」すら最小限にとどめ、写真とシンプルなメッセージだけで世界観を伝えます。店頭では、商品が整然と並び、棚自体が広告のように機能します。消費者はその空間に立っただけで、「ここにあるものは信頼できそう」「自然体で過ごせそう」と、言葉ではなく感覚的にそのブランドを理解します。
このような戦略により、無印は「暮らしの中で無理なく取り入れられる」「飽きずに長く使える」という安心感を、瞬時に直感させることに成功しています。
ユーザーの注意を惹き、心を動かす広告には、「違和感・共感・直感」という3つの心理ステップを組み込むことが重要です。
たとえば、Netflixのマーケティング戦略にも「違和感・共感・直感」という3つの心理トリガーが活用されています。
まず「違和感」の例として、世界的な大ヒットとなった『イカゲーム』の広告事例があります。Netflixは韓国・ソウルの梨泰院駅構内に、まるでドラマの世界に入り込んだかのようなセットを再現し、通行人に「なんだこれは?」という強烈な違和感を与えることに成功しました。このような非日常的な体験を通じて、SNSなどでも話題が広がり、大きな注目を集めました。
次に二つ目の「共感」を呼び起こす施策として、「Don’t give up on your dreams. We started with DVDs.(夢はあきらめるな。私たちもDVDから始まった)」という広告コピーがあります。
Netflixと聞くと、多くの人が「世界的な大企業」というイメージを抱きますが、このメッセージを通じて、実はDVDのレンタル事業からスタートしたという意外な事実を伝えることで、企業としての成長の過程に親しみを感じさせます。
このように、距離のある存在に見えがちなグローバル企業であっても、等身大の物語を共有することで、視聴者との心理的な距離を縮め、共感を生むマーケティングが展開されています。
そして「直感」に訴えるのが、「Anytime. Anywhere. Instantly.(いつでも、どこでも、今すぐに)」というシンプルなコピーです。短くて覚えやすく、利用体験の魅力を直感的に伝えるこの言葉は、多くのユーザーにとって「なんとなく良さそう」と思わせる力を持っています。
このように、Netflixのブランディングには「違和感・共感・直感」という黄金の心理トリガーが随所に活用されており、ユーザーの心を自然と惹きつける仕組みができています。
従来のシャンプーCMといえば、著名なタレントを起用し、シズル感のある映像で製品の効果をダイレクトに訴求するのが一般的でした。
しかし、メリットのこのCMでは、その常識をあえて覆しています。全編を手描きのアニメーションで構成し、シャンプーの効能を前面に押し出すのではなく、日常のさりげないシーンを丁寧に描くことで、視聴者に従来の広告とは全く違うという点で新鮮な違和感を与えています。
ターゲットは小さな子どもを持つ家庭。「家族と愛とメリット」というコピーとともに、親子の何気ない一コマを描くことで、毎日の生活の中にある小さな幸せやつながりの大切さを自然に伝えています。いわば、共感を軸にしたマーケティング手法です。
さらに、手描きの質感を活かしたフォントやアニメーション表現が、従来のシャンプーCMにはない家族の温もりや優しさを直感的に伝え、ブレないブランドの世界観を新しい方法で印象付けています。
私たちの脳は日々膨大な情報処理する中で、わずか数秒で「見る・見ない」を判断しています。そのわずかな時間の中で、広告が「違和感・共感・直感」の流れを作れるかどうかが、視聴者の心をつかみ、行動へと繋げる鍵になります。
違和感は脳にブレーキをかけ、注目を引く。共感はユーザーの悩みや欲求に寄り添い、「自分ごと化」させる。そして直感は、言葉よりも先に感情に訴えかけ、「なんとなく良さそう」というポジティブな第一印象を与えます。
これらの仕掛けをうまく掛け合わせ、ブランディングに詰め込むことで、広告やLPは記憶に残る体験になりやすくなります。