blog»ブランド・マーケティング»【2025年版】生成AIマーケティング活用法と成功事例3選
2025年05月13日
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ここ数年で、生成AIは「ただの流行」ではなく、マーケティングの現場において本質的な変化をもたらす存在となりつつあります。特に注目されているのが、時間短縮とクリエイティブ向上の“両立”が可能になること。従来なら何時間もかかっていた広告コピーの案出しや、デザインのたたき台作成、企画書づくりなどが、AIの力を借りることで効率化されました。
実際に、海外の大手ブランドから日本企業に至るまで、生成AIの導入は一気に加速中です。社内ナレッジの活用、広告の最適化、SNS運用、ホワイトペーパーの作成に至るまで、使い方は様々あります。
こうした活用が進む中で、多くの企業が気づき始めています。
それは「生成AIは人間を代替するものではなく、“優秀な相棒”として共に働く存在である」ということです。
“100点満点”の成果を最初からAIに求めるのではなく、0→1や1→10を加速させるパートナーとして、マーケティングの現場に取り入れ活用できるかがが、これからの時代に求められるスキルとなってきています。
生成AIの登場により、これまでのマーケティングにおいて顧客一人ひとりに向けたニーズのパーソナライズが可能となりました。従来はテレビCMなど一方向のメディアが認知フェーズの主な手段でしたが、生成AIの登場により、ユーザーとの双方向のコミュニケーションを通じて一人一人のニーズの理解、パーソナライズが可能になりました。さらに、AIのレコメンド機能により、ユーザー自身が気づいていなかったニーズや新たな商品との出会いが生まれやすくなりました。
また、認知から購買に至るまでの各ステップにも、対話型広告・コンシェルジュAI・営業AIなどの「対話要素」を組み込むことで、よりパーソナライズされた顧客体験を提供できるようになりました。
さらに、購買後もパーソナライズされたAIとの対話を継続することで、カスタマーサポートの質向上やリピーターの増加といった効果も期待されています。
ユーザーの買い物スタイルは、この数年で大きく変化しました。
スマホひとつでいつでもどこでも商品を探し、購入できる時代。そんな中で、ECサイトに代表されるオンラインショッピングにおける“接客体験”も、いま進化を求められています。
EC市場は急速に成長しており、競争も激化しているため、EC事業者は他社との差別化が求められています。その中で、一人ひとりに合わせたパーソナライズされた接客が重要になってきています。AI接客は、顧客の行動履歴や購買履歴をもとにデータを分析し、それぞれのニーズに合った商品提案を実現。これにより、顧客の購買意欲を高め、売上向上に大きく貢献できるというメリットがあります。
カスタマージャーニーの多様化と“自分らしさ”の時代へ
従来のマスマーケティングのように、全体に向けた一律の広告を展開する手法は、現代の消費者には届きにくくなっています。代わって、ユーザー一人ひとりの好みやスタイルに合わせた体験の提供が重視されるようになってきました。
特にSNSの普及により、顧客が触れる情報量はかつてないほど増加し、カスタマージャーニーは非常に複雑化しています。実際、株式会社テテマーチの調査によると、Z世代の約6割が「自分向けにカスタマイズされた情報や商品に魅力を感じる」、「自分が気に入ればブランドは気にしない」と回答しており、パーソナライズされたショッピング体験へのニーズが高まっていることがわかります。
Z世代を中心に「みんなと同じ」よりも「自分らしさ」を重視する価値観が浸透しており、選ぶ商品にも個性が反映されるようになってきました。こうした背景からも、ユーザー一人ひとりが「どんな人か」を深く理解し、それぞれに最適な体験を提供することが、これからのECにおいてますます重要になっていくといえるでしょう。
生成AIの活用は、もはや“実験段階”を超え、世界のトップ企業が本格的にマーケティング業務へと取り入れている段階に入っています。ここでは、具体的にどのようにAIが活用されているのか、代表的な4社の事例をご紹介します。
Shopifyは、ECサイト運営者向けに生成AIを活用した接客ソリューションを強化しています。特に注目されるのが「Shopify Magic」や「Shopify Sidekick」といったAIツールで、これらは顧客対応の自動化だけでなく、商品のレコメンド、チャットベースの購入サポート、商品説明文の生成まで幅広く対応しています。
例えば、他のツールでは「商品レコメンド」や「チャット対応」など、特定の機能に特化していることが多いですが、ShopifyのAIは商品説明の自動生成、レコメンド、購入サポートまで一貫して提供しており、EC事業者のニーズを広範囲にサポートします。
また、Shopifyはプラットフォーム一体型であり、先のAIツールもShopifyユーザーなら即座に利用可能なのも魅力です。
Monksは、睡眠ウェルネス企業Hatchの新商品「Restore 2」の広告キャンペーンにおいて、Googleの生成AI「Gemini」を活用することで、従来のアプローチでは不可能と思われた「超パーソナライズ広告」の実現に成功しました。
「常時稼働のフォーカスグループ」としてのAI
Hatchの広告キャンペーンにおいて、Monksはまず限られた時間と予算の中で、どうすれば新しいセグメントへ的確にアプローチできるかを模索していました。ここで活躍したのがGoogleの生成AI「Gemini」です。Geminiに対してソーシャルメディアのトレンド、検索クエリ、業界レポート、競合分析などのリサーチを依頼することで、通常なら数週間かかる作業をわずか数時間で完了させることができました。
その結果、Hatchの商品と親和性の高い3つのセグメントを特定することができました。
この特定だけでなく、Geminiが各ペルソナになりきり、まるで実際にインタビューを行っているかのような深掘りも実現し、「人間のような定性調査」が効率的かつ網羅的に行えました。そのため、AIがまるで「常にアクセス可能な消費者」として機能したのです。
「1つのコアメッセージ × 多様な世界観」の構築
従来、ターゲットごとの広告作成には大きなリソースが必要ですが、Geminiの活用により、その壁を乗り越えることができました。Monksは「一夜の良質な睡眠が人生の可能性を広げる」という共通メッセージを軸にそれぞれのターゲットに合わせて異なる世界観やストーリーを展開しました。
たとえば、ストレスを抱えるプロフェッショナルには「翌日のプレゼンで成功する朝」、ウェルネス志向の人には「ヨガのポーズが一段と安定する朝」といった理想の一日を描きました。
これらの表現を支えるビジュアル面でも、Geminiが生成した「理想の寝室」の描写をImageFXに渡すことで、各ペルソナの生活スタイルや感情に響く広告ビジュアルを生成。結果として、高い共感性と多様性を両立したクリエイティブ制作が、従来では不可能なスピードとスケールで実現しました。
「AIによるリアルタイムな広告配信最適化」
制作した広告は、GoogleのAI広告プラットフォーム「Performance Max」を通じて配信されました。ここでもGeminiによって得られた詳細なペルソナ情報が活かされ、検索行動やWeb上での関心に基づいたセグメンテーションが可能になりました。
Performance Maxは、ユーザーの興味関心や行動パターンをリアルタイムで分析し、どのタイミングでどのクリエイティブを表示すべきかをAIが自動で判断・最適化。
つまり、広告の“出し方”の決定までAIが担うことで、人間の直感だけではカバーしきれない繊細なターゲティングとタイミングの最適化が実現されたのです。Geminiの活用はクリエイティブ制作だけにとどまらず、広告運用においても高精度なパフォーマンス改善に直結しました。
AIによる「効率化」ではなく、「可能性の拡張」へ
このAIをフル活用した超パーソナライズによってユーザーのエンゲージメント、そして製作者側のコストが劇的に改善しました。
例えば、
これまで数週間から数ヶ月かけていた作業が、わずか数日で完了したことは、単なる「時短」や「コストカット」ではなく、広告制作における“限界の打破”とも言えるでしょう。
アメリカ発祥の大手リテール企業であるWalmartも、生成AIを活用したパーソナライゼーション技術に取り組んでおり、独自のアプリやウェブサイトで一貫したパーソナライズされた購買体験の提供を目指しています。
中核を担うのは、自社開発の大規模言語モデル「Wallaby」です。これは数十年分にわたる社内データでトレーニングされており、Walmartの環境に特化した顧客対応を可能にしています。
この技術は、AIショッピングアシスタントや自然言語検索機能などに活用されており、ユーザーの探索時間を大幅に短縮します。例えば、従来の検索バーに代わって自然言語での質問や会話形式での検索が可能になり、週平均6時間かかっていた商品探索の手間を減らすことができるようになりました。従来の「ユーザーが自ら商品を探す」体験から、「企業側がユーザーに最適な商品を提案する」体験へと進化しています。
まず一つ目のポイントは顧客一人一人の声”Voice of Customer”をAIを使用して収集するということです。前述したように顧客のニーズが多様化する中、それぞれのユーザーをパーソナライズすることは非常に重要になってきました。
例えば、アートネイチャーは「HAIRの部屋」といった毛髪相談ができるカウンセリングAIサービスを導入しました。このAIは医師の監修のもと制作した150以上のコンテンツをベースに生成AIがユーザーと対話しながら個々のお悩みに合わせたコンサルティングを行うサービスです。
⚡️従来のサービスとの違い
このような新しいAIのサービスを経て、今までは難しかった本当の商品を求める理由の解像度を上げることができました。
例えば、ユーザーが「白髪 シャンプー」と検索すると、従来の検索システムのみの分析だとユーザーが白髪のシャンプーを求めているのだろうというと推測することしかできませんでした。
しかしAIサービスの導入を経て、ユーザーが本当に使いたいのか、友人にギフトとして贈りたいのかを詳細に分析することが可能になりました。またこのサービスは、AIとのチャットだからより本音ベースでユーザーの声を収集することができるようになりました。
このように一方通行のチャットサービスではなくAIとのチャット型のサービスの導入により、ユーザー一人一人が何を求めているかを把握することが可能になります。
AIと積極的に会話を楽しむユーザーは、現時点ではまだ多くありません。だからこそ、「このAIと話してみたい」と思わせる明確な理由を設計することが非常に重要です。
会話型AIに求められるのは、単に商品やサービスの知識を持っているだけではありません。それに加えて、ユーザー一人ひとりを理解し、まるで“人”のように寄り添う存在であることが求められます。
たとえば、H&MのファッションAIでは、ユーザーが「夏のワンピース」と入力すると、過去のデータをもとにサイズや好みのカラー・スタイルに合った商品を提案してくれます。さらに、コーディネートに合うアクセサリーまで提案することで、ユーザーはより楽しくショッピングを体験できます。
このように、買うためだけでなく、「自分に合ったファッションスタイルを見つける」という目的で利用できる点が、心理的ハードルを下げ、会話型AIの定着につながっているのです。
3つ目のポイントは、ユーザーごとに「なぜこれを選ぶべきか」という説得力のある理由を届けることです。例えば、ゴルフダイジェスト・オンラインが提供するゴルフ場予約ページに設置した対話型AIサービスでは、非常にパーソナライズされたAI接客を行なっています。
このAIはフリーワードでユーザーとAIが自然な会話をしながら一人ひとりの細かい要望、好み、潜在的なニーズを汲み取り、AIが個別に最適な提案を行うことでゴルフ場予約を促進するサービスを提供しています。
また長期的な利用をしてもらうために、パーソナライズされたゴルフアイテムの使用や、次回のゴルフ場の提案も行なっています。このようにAIのデータ解析能力を通じて、パーソナライゼーションを行うことで、さらに、プレー後の振り返りにもAIを活用することで、その体験に基づいた次回のゴルフ場や関連アイテムの提案にも繋げています。
このように、ユーザーごとの文脈や気持ちに寄り添いながら最適な選択肢を提案する「会話型パーソナライズ」は、生成AIの強みを最大限にいかす活用方法の一つです。
AIは「学習もとのデータがすべて」のため、データの質が悪いと逆効果なアウトプットが生まれてしまいます。例えば、古い、偏った、不正確なデータに基づくと、逆効果な判断が生まれてしまいます。
業務の多くをAIに任せすぎてしまうと、マーケター自身の分析力や思考力が低下する懸念があります。特に若手の育成においては、判断力や企画力を鍛える機会が減ってしまい、発想力や戦略構築力といったクリエイティブな能力の成長にブレーキがかかることもあります。
このようなデメリットを踏まえると、AIは「すべてを任せる存在」ではなく、「優れたパートナー」としての位置づけで活用することがカギになります。AIに完璧な成果を期待するのではなく、人間の発想や経験を支え、0から1、1から10を加速させる役割として取り入れることが、マーケティング現場でのAI活用の成功に繋がります。
生成AIは、もはや一部の先進企業だけが使う特別な技術ではなく、あらゆる企業が日常的に活用できる“身近な武器”となりつつあります。
しかし、成果を出すためには「導入すること」自体が目的ではなく、どう使うか、どこで活かすかという視点が欠かせません。
マーケターに求められるのは、「人間にしかできないこと」と「AIに任せられること」を見極め、AIと“協働”しながら価値を最大化するスキルです。
いまはまだ過渡期かもしれませんが、数年後には生成AIを活用することが当たり前の時代がやってくるでしょう。今こそ一歩踏み出し、生成AIをマーケティングの現場に取り入れていくことで、競争優位を築くことができるはずです。